大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)71号 判決

一 請求の原因一、二の事実並びに審決がその理由の要点1、2で認定した事実及び本願意匠と引用意匠とは審決がその理由の要点3で認定した点において一致することは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 請求の原因三1について

(一) 本願意匠を示すこと当事者間に争いのない別紙(一)によれば、本願意匠において、缶の上部は長円筒状の胴部外面の鉛直線を基準に内方へ約三〇度弱の角度で傾斜して肩部を形成した後に外方へ再傾斜して胴部直径の約九四%の径の開口部を形成し、下部は胴部外面の鉛直線を基準に内方へ約四〇度の角度で傾斜して逆円錐台形状の底部(底部直径は胴部直径の約八七%)を形成したものと認められる。

これに対し、引用意匠を示すこと当事者間に争いのない別紙(二)によれば、引用意匠において、缶の上部は長円筒状の胴部外面の鉛直線を基準に内方へ丸面状に傾斜して肩部を形成した後に外方へ再傾斜して胴部直径とほぼ等しい径の開口部を形成し、下部は胴部外面の鉛直線を基準に内方へ僅かに丸面状に絞られて胴部直径よりやや小さな径の底部を形成したものと認められる。

(二) 右事実と前示当事者間に争いのない本願意匠と引用意匠の一致点によれば、両意匠は、胴部を長円筒状とし、首部をやや凹弧面状に絞り、上端の開口部をややラツパ状に広げた基本的構成態様及び底部寄りの周縁をやや絞つた具体的構成態様において一致し、その差異は審決が両意匠の相違点(1)(2)(3)として摘示した開口部上端、肩部及び底部寄り周縁についての各差異に尽きるものということができる。

(1) 原告が本願意匠と引用意匠の相違点<1>として主張する開口部直径の差異は、右事実から明らかなとおり、引用意匠が開口部直径を胴部直径とほぼ等しく形成したのに対し、本願意匠がその開口部直径を胴部直径より約六%小さく形成したことに由来する差異にすぎず、開口部をややラツパ状に広げた形状のうちにあつては、開口部の僅かな広狭の差異としてしか見る人に印象を与えない程度の微差というべきものである。原告主張の開口部内径の差異を考慮しても、これをもつて、両意匠に別異の美感を生じさせるに足る差異と認めることはできない。

(2) 引用意匠に肩部は設けられていないとする原告の相違点<2>の主張は、前示認定の事実に照らし採用することができない。

原告は本願意匠の缶の上部は胴部外方から内方へ鋭く傾斜して肩部を形成している旨主張するが、前示認定の事実から明らかなとおり、肩部を形成している斜面は胴部外面の鉛直線を基準に内方へ約三〇度弱の角度で傾斜させたものであり、胴部外面と右斜面とが形成する内角は約一五〇度強の鈍角であつて、これを前示認定の引用意匠の肩部の形状と比較すれば、審決認定の相違点<2>の示すとおり、本願意匠はこれを角面状としているのに対し、引用意匠はこれを丸面状としている差異に帰着するものと認められる。

したがつて、原告の相違点<2>の主張は採用できない。

(3) 原告の相違点<3>の主張は、前示認定のとおり引用意匠の缶の下部が丸面状に絞られて胴部直径よりやや小さな径の底部が形成されている事実に反する事実を前提とするものであるから、採用できない。

(4) 前示認定の事実によれば、引用意匠においても肩部、胴部及び下部の三つの部分に区別されることは明らかである。したがつて、これを区別することができないことを前提とする原告の相違点<4>の主張は失当である。

2 同三2について

(一) 原告は、前示当事者間に争いのない本願意匠と引用意匠との一致点に係る構成は通常の缶に見受けられる一般的構成にすぎない旨、また、その用途機能からもたらされる必然的形状である旨主張するが、本件全証拠によつても、右主張に沿う事実はこれを認めることができない。また、本来意匠はその各構成部分を総合した全体的なまとまりとして視覚的に見る人に印象づけるものであり、ある部分が見る人の注意を特に引く部分かどうかについても、その部分が全体に対しどのような影響力を及ぼしているかを全体的に考究すべきものであることにかんがみると、仮に前示一致点に係る構成が原告主張のとおりのものであつても、これを除外して類否の判断をすることは相当でない。そして、後述のとおり、右一致点に係る構成は両意匠において見る人の目を最も引くところと認められるから、右いずれにしても、原告の主張は採用できない。

(二) 原告引用の意匠登録例が右判断を左右するに足りる資料とならないことは自ら明らかである。

3 同三3について

以上の事実を前提に別紙(一)(二)を見れば、本願意匠と引用意匠の一致点であること当事者間に争いのない前示基本的構成態様と具体的構成態様は両意匠において見る人の目を最も引くところであり、両意匠の美感を決定する要部として把握すべきところと認められる。これに対し、相違点(1)が微差にすぎないことは前叙のとおりであり、相違点(2)(3)は、本願意匠が引用意匠に比し肩部及び底部寄り周縁において角ばつた印象を与えるものではあるが、右の要部を共通にする構成態様のうちにあつては、両意匠に共通する美感を左右するに足りる顕著な差異ということはできず、結局、両意匠は類似の意匠と認めるのが相当である。

4 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、一九八〇年九月五日イギリス国においてした意匠登録出願に基づく優先権を主張して、昭和五六年三月二日、意匠に係る物品を「罐」とし、その構成態様を別紙(一)のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願をした(昭和五六年意匠登録願第七九九一号)が、昭和六〇年二月二七日に拒絶査定を受けたので、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第一三八二八号事件として審理した上、昭和六二年一一月二四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日を附加)との審決をし、その謄本は、同年一二月二三日、原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本願意匠の意匠登録出願の経緯及び本願意匠が意匠に係る物品を「罐」とし、その構成態様を別紙(一)のとおりとしたものであることは、前項記載のとおりである。

2 これに対し、昭和四九年四月三〇日特許庁受入の外国雑誌「Modern Packaging」一九七四年一月号六五頁所載の意匠(資料番号第四九四九五四七号、以下「引用意匠」という。)は、意匠に係る物品を「包装用缶」とし、その構成態様を別紙(二)のとおりとしたものである。

3 両意匠を比較すると、意匠に係る形態について、両者は、胴部を長円筒状とした点、首部をやや凹弧面状に絞つた点、上端の開口部をややラツパ状に広げた点等の各部の基本的形状及びそれらによつて構成された全体の基本的構成態様が一致しているものと認められる。さらに全体の具体的構成態様についても、次の(一)(二)(三)の各点につき差異が認められるのみであつて、その余の、底部寄りの周縁をやや絞つた点等につき一致しているものと認められる。

(一) 開口部につき、本願意匠は、上端の直径を胴部直径よりわずかに小さいものとしているのに対し、引用意匠は、胴部直径とほぼ等しいものとしている点(相違点(1))

(二) 肩部につき、本願意匠は角面状としているのに対し、引用意匠は丸面状としている点(相違点(2))

(三) 底部寄りの周縁につき、本願意匠は引用意匠よりわずかに強めに絞つた角面状としている点

4 以上の一致点、相違点を総合して両意匠を全体として考察するに、右相違点は、両者の具体的構成態様のうちの一部分、あるいは細部における差異と認められるものである。

すなわち、相違点(1)は、本願意匠が、その部位を胴部直径よりわずかに小さいものに改変した結果生じた微差にすぎないものであつて、両者とも、ややラツパ状に広げたという点では共通するものであり、相違点(2)は、本願意匠が角面状に形成しているとしても、実際には、図面に墨線で表されたようにエツジラインが明瞭に視認できるほどのものでもなく、微差と認められるものであり、相違点(3)も意匠的にはほとんど重要でない一部位における微差と認められるものであり、いずれの相違点も、前記の一致点を凌駕して看者に別異感を与えるほどには未だ到つていないから、全体の具体的構成態様を著しく変更したと認められるほどの差異ということはできない。

以上のとおり、本願意匠は引用意匠と上記の各点につき差異が認められるものであるが、その余において、前記のとおり一致点が認められるものであり、全体として引用意匠に類似するものといわざるをえない。

5 したがつて、本願意匠は、意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当するものであるから、意匠登録を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一) 本願意匠

<省略>

別紙(二) 引用意匠

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!